統計学を使用した投資理論について(標準偏差、分散、正規分布、ポートフォリオ)

ひょうじゅんへんさ ファイナンス

基礎的な考え方

 

リスクを回避することではなく、そのリスクの程度を把握し、かつ、そのリスクに見合ったリターンを受け取ることが可能化を判断する能力を身につけること。

 

→投資機会を比較するためには、それぞれが生み出すキャッシュフローをリスクに応じた割引率で現在価値に割り引く必要がある。

こうすることによって、お金の時間価値やリスクの程度を反映させることができる。

 

リスクの程度をどのように割引率に反映させればいいか?

→リスクを定量化する必要がある。リスクとは何かを定義し、そのリスクを定量化するツールを学ぶ。

 

株式はリスクが高いと言われている
→なぜか。急激に株価が下がるからではなく(それだけなら空売りで利益を出せる)、激しい値動きを予想できないからである。

 

ファイナンスの世界では、リスクとは、予想することができない「不確実性」をいう。

 

株の日次リターンを見る。プラスからマイナスまで揺れ動く。このリターンのばらつきがリスクの大小を表す。ばらつきが大きくなるほど、予想が困難になる。

 

※リスクとは、あくまでも、「予想リターンのばらつき」である。リスクを論じるとき、過去のデータを使用するが、”予想リターン”なのであくまでも前向きに。

 

ばらつきの大きさを表すのが、標準偏差(standard deviation)などの統計量。
ファイナンスに強くなるためには統計の知識は不可欠

 

標準偏差と分散という概念

 

標準偏差分散の平方根である」

 

分散は、データの平均値とそれぞれのデータの差を二乗したものの合計をデータ数で割って求める

 

例)1,3,8という3つのデータがある。まず、この平均を求める。12/3=4となる。

 

分散とは、この平均からのばらつきの度合いを表す指標
それぞれのデータと平均との距離(これを偏差という)を出す。

 

平均4からの偏差は、それぞれ、(1-4)=-3、(3-4)=-1、(8-4)=4となる。

偏差は正負の両方の値をとる場合もある。

それぞれの偏差を二乗したものの合計を求める
-3^2=9

-1^2=1

4^2=16

9+1+16=26

 

合計数26(偏差を二乗したもの)をデータ数(3)でわる

分散=26/3=8.67

 

と計算できる。この分散の平方根が標準偏差。√8.67=2.94

 

分散は、単位が%の2乗なので、使い勝手が悪い。なので、使いやすく単位を%にするため、分散の平方根で計算してから、ばらつきの指標とするのが一般的。これを標準偏差という。

 

実務上、殆どの場合、ボラティリティ標準偏差を指す。
→標準偏差が大きいほど、その株式のリスクは高い。

 

※ボラティリティ…銘柄の価格変動の大きさを示す変動率

volatile(ボラタイル)
〔人が〕気まぐれな、移り気な
〔人が〕興奮しやすい、怒りっぽい
〔状況などが〕危険な、不安定な
短命の、つかの間の
《化学》揮発性の◆低温で蒸発しやすいこと。

 

正規分布・変動係数・期待値

 

実際の株価のリターン分布は、リターンの平均を中心に左右対称になり、中心から離れるに従って、限りなく下の線に近づく釣鐘型の分布。

正規分布(normal distribution)となる。

ファイナンスや経済への応用として最もよく使われる確率分布

 

正規分布の特徴は、平均と標準偏差の2つのパラメータが決まると完全に特定できる。平均μ、分散α^2のときに、N(μ、α^2)と表される。

 

正規分布の性質

・正規分布は、平均μを中心に左右対称になる

・正規分布は、平均μのところで一番高っくなり、中心から離れるに従って限りなく下の線に近くなる

・正規分布のカーブの下の面積は形にかかわらず、どれも1になっており、分布のカーブの下の面積は確率を示している

・平均から左右に標準偏差1つ分の区間、つまり「平均値±標準偏差(α)×1」の区間にデータが入る確率は68.26%

・平均から左右に標準偏差2つ分の区間、つまり「平均値±標準偏差(α)×2」の区間にデータが入る確率は95.44%

・平均から左右に標準偏差3つ分の区間、つまり「平均値±標準偏差(α)×3」の区間にデータが入る確率は99.74%

 

※偏差値はテストの点数が正規分布になると仮定し、その分布が平均50点、標準偏差10になるように得点を変換したもの。

 

(例)

10~15のデータの予想価格の平均値を取る。820ドルとする。過去一年間のボラティリティ(標準偏差)を参考にする。

過去一年間の平均価格が780ドル、標準偏差が50ドルとする。

 

つまり、過去一年間の価格の分布が正規分布に従うとすると、価格が730=830(±50)ドルにある割合は約68%

 

変動係数(Coefficien of Variation:CV)

変動係数は、

標準偏差σを平均μで割り、100を掛けて%表記したもので、相対的なばらつき度を表す指標の一つ

CV=σ/μ*100 (%)

ギリシア文字

(σシグマ または s: 標準偏差を表す。)

(μミュー:母平均を表す。)

 

標準偏差も平均も、単位は%。

 

なので、変動係数は無単位(分母分子で単位が消える)になる。

 

したがって、
単位が異なる2組の統計データのばらつき度を比較することができる(変動係数)。

 

平均価格は780ドル、標準偏差は50ドル。次に変動係数を求めると

 

CV=50/780 * 100 = 6.41%

 

となる。

 

この変動係数を次年度の価格予想に反映させる。

 

予想価格の平均は820ドル、返納係数が6.41%ととすると、標準偏差は820 * 6.41% = 52.56と求められる。

 

このことから「価格は68%の確率で767.44ドルから872.56ドル(820±52.56)のレンジになることが予想される」と考える。

 

過去のリスクと将来のリスクはそれほど変わらないと仮定する。これは、さまざまな分野に応用できる考え方。

 

投資のリスク判定。ポートフォリオ

 

投資のリスクを考える場合は、他の株式やポートフォリオとの相関の度合いを見る必要がある。

その尺度として、2つの統計量。

共分散(covariance)と相関係数(correlation coefficient)

 

統計学では、2変数の相関関係の方向を示す指標として、共分散という統計量を使う。

 

共分散を求める手順

 

1.それぞれの株式の偏差(リターンと平均値の差)を計算し、それを掛け合わせる

2.それらのかけ合わせたものの平均値を算出する

 

共分散では、正負に注目する。

2変数の相関関係の方向を示す指標。共分散の値は、相関関係の強さを表してるわけではない

 

相関関係の強さを表す統計量を相関係数という

相関関係は、共分散を2つの変数の標準偏差の積で割って求める

 

相関係数の値は必ず、-1と1の間になる

 

相関係数の意味

相関係数>0 2つの変数は同じ方向へ動く
相関係数=0 2つの変数は全く無関係に動く
相関係数<0 2つの変数は反対方向へ動く

 

相関の強さ

±0.7~±1 :強い相関がある
±0.4~±0.7 :中程度の相関がある
±0.2~±0.4 :弱い相関がある
±0 ~±0.2 :ほとんど相関がない

 

相関係数が+1か-1ならば完全に相関(完全に予測可能、完全に同じ動きorまったく逆の動き)する。

+1か-1の場合、2つの変数は完全相関であるということがある。

 

ポートフォリオは、もともと、「債権や株券をはさむファイル」のことをいった。
しかし最近では「いろいろな資産の組み合わせ」を意味する。

 

ポートフォリオの期待収益率は、それぞれの株式の期待収益率の加重平均

 

※期待収益率とは、予想される収益率分布の期待値

【株価分析】期待収益率と取得妥当価格の計算方法

加重平均とは、各項の数値と重要度など重みとの積を使って算出する平均。重み付き平均

加重平均

 

計算したものを、グラフ化する(エクセルでグラフを作成する方法。棒グラフ・折れ線グラフ・複合グラフも簡単!

同じリスク(標準偏差)で、より高いリターンが得られるポートフォリオが他にある(グラフの上半分)。

このグラフの上半分を効率的フロンティア(efficient frontier)と呼ぶ。

 

ポートフォリオが効率的とは、
同じリスク(標準偏差)を取る場合に、そのポートフォリオよりも優れたポートフォリオが他にないことをいう。

 

グラフの上半分のどれを選べばよいかという点。
リスク・リターンの許容度で選ぶ

 

相関関数と効率的フロンティアの関係

 

相関係数が1の場合は、2つの株式は全く同じ動きをするので、ポートフォリオによるリスクの分散効果は働かない。

 

ρ=+1のとき
リスク分散効果なし

-1<ρ<+1のとき
リスク分散効果あり

ρ=-1のとき
2つの株式はまったく反対の動きをするため、2つの株式の組入れ比率によっては、リスクフリー(標準偏差ゼロ)にすることが可能。

(相関係数ρ:ロー)

 

リスクフリーレート(国債などのリスクがないものの金利)から効率的フロンティアに接する線を1本引くことができる。

この線を、資本市場線(Capital Market Line:CML)と呼ぶ。この直線が最も効率的

 

投資家にとって最適なポートフォリオは、この資本市場線上のポートフォリオ。

 

→資本市場線は、リスクフリーレートから効率的フロンティアへの接線になる。接点にあるポートフォリオをマーケットポートフォリオと呼ぶ。

→資本市場線上のすべての点は国債とマーケットポートフォリオのさまざまな組み合わせを表している。

 

☆合理的な投資家は、マーケットポートフォリオとリスクフリー資産を組み合わせたポートフォリオを保有する。

 

シャープレシオ
→ポートフォリオがリスクに見合った運用実績を上げているかを見る指標。リスクを取ることによってどれだけ効率よくリターンを上げることができたかを示す。

 

シャープレシオ=リスクプレミアム(ポートフォリオ運用実績-リスクフリー・レート)/ポートフォリオのリスク(標準偏差)

 

リスクプレミアムとは
ある資産に投資したことにより得られた収益から、リスクフリーレートを引いたもの。リスクプレミアムとは、リスクを取ったことに対する報酬

 

シャープレシオは資本市場線(CML)の傾き
→シャープレシオが最大となるポートフォリオがマーケットポートフォリオになる。

 

マーケットポートフォリオはあくまでも抽象的な概念。

しかし、投資家はリスクフリー資産と十分にリスク分散されたリスク資産を所有すべきである。このような考え方から「TOPIX」や「S&P500」などのインデックスに連動するファンドが生まれた。

 

投資を分散化することにより、リスクを減少させることができる。株式がある一定の数を超えるとリスクは減少しなくなる

それは、株式にあるリスクのうち、市場リスクと呼ばれるものは、分散化によっても取り除くことができない

株式リスク市場リスク(market risk)と個別リスク(unique risk)の2つから成り立っている

 

株式のリスク(総リスク)=市場リスク(マーケットリスク)+個別リスク(ユニークリスク)

 

→十分に分散されたポートフォリオは市場リスクのみが問題になる。

 

マーケットポートフォリオにたいする感応度を表すβ(ベータ)

βとは、市場全体のリターンが1%変化したときに、その株式のリターンが何%変化するかという市場全体に対する感応度を表す。

 

βの値の特徴
β>1の株式:マーケット以上に動く傾向
β<1の株式:マーケットよりも小さく動く傾向
βがマイナスの株式:マーケットと反対に動く傾向

 

ベータは、分散化によって取り除くことはできない市場リスクを測る物差し

 

ファイナンスの世界では、投資家はリスク回避的(risk averse)であるというのが前提。
→リスクに見合ったリターンを求める

 

期待収益率=リスクフリーレート+リスクプレミアム

と表せる。

 

リスクプレミアムをどのように求めるか?
→資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model:CAPM)…キャップエム

 

CAPMは、ファイナンス理論の最も重要な概念の一つと考えられており、このモデルの発見者であるウィリアム・シャープは、1990年にノーベル経済学賞を受賞。

 

CAPMによれば、すべての資産のリスクプレミアムは、その資産のβに比例する。
→βが2倍、リスクが2倍になれば、リスクプレミアムも2倍となる。

 

よって
資産iの期待リスクプレミアム=βi×マーケットリスクプレミアム

→一次式の直線で表すことができ、この直線を証券市場線(Security Market Line:SML)という。

 

証券市場線で、すべての資産のリスクとリターンの関係を表すことができる

 

効率的市場仮説。過去の株価の推移から、将来の株価を予想することは可能か?

 

ファイナンス論理では「効率的な」市場で決定される株価は、その時点で利用可能なすべての情報を反映しているため、過去の株価の推移から将来の株価を予想することはできないと考える。

効率的市場では、新しい情報が発生すると、それを反映して、瞬時に株価は変動する。つまり投資家は、市場全体よりも価値のある情報を持たない限り市場に勝つことが難しいということを意味する。

 

実際に市場は効率的市場か?

この問いに対して効率的であると考えるのが、効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis:EMH)。

 

この仮説における情報のレベルはウィークフォーム、セミストロングフォーム、ストロングフォームがある。

 

ウィークフォーム[weak-form]

マーケット株価には、過去全ての情報が反映されている」とする仮説。

これが成り立てば、過去の株価の動きから、将来の株価の動きを予想して設けるのは不可能ということ。

これが真実だとすれば、値動きの推移を見る、テクニカル分析は無効

 

過去の株価の動きは、すべての人が手に入れることができる情報。これらの情報によって儲けることができるとしたら、みんな儲かる。逆に、みんなが同じことするため、儲けることなどできない。

 

過去の株価の動きのパターンを分析して、将来の値動きを予想する、いわゆるテクニカル分析はこの効率的市場仮説からすれば、無視すべきものということになる。

 

セミストロングフォーム[semistrong-form]

マーケットの株価には、過去の情報に加えて、現時点で公表されているすべての情報が反映されている」とする。

 

将来の株価を予想するのは不可能であると考える。有価証券報告書を読んで金儲けできるか?そのようなものから得られる情報はすぐに知れ渡ってしまう。ファンダメンタル分析は無効と考える。

 

・ストロングフォーム[strong-form]

マーケットの株価は公表されているか否かを問わず、すべての情報が反映されている

 

上記だと仮定すると、インサイダー情報も株価に反映されていることになる。

インサイダー情報を使った取引が法律で禁じられていること自体が、ストロングフォームの意味では、市場は効率的ではないという証拠とも言える。

 

効率的市場仮説自体が、いまなお決着はついていない。実証データにも効率性を否定する証拠があったりする。

アノマリーと呼ばれる現象が有名。

CAPMなどの既存のファイナンス理論では説明することができない現実の資産価格の動きのことを指す。具体的には小型株効果やバリュー効果、リターン・リバーサル効果などが観測されている。

アノマリー

投資家にとっては、市場が非効率であるということは、金儲けのチャンスが有るということ。

価格と価値に差が生じてる可能性があるから。

 

 

企業にとっては、株価は将来生み出すキャッシュフローの現在価値であるとするならば、短期的株価ではなく、あくまでも長期的な株価の動きを見る。

 

その他の有名なアノマリー

・週末効果…「月曜日の株安」や「週末の株高」

・January Effect(1月効果)…1月は株価が上がりやすい

・ジブリの法則

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